自分の目の前のスーツ男が
ピピッと改札でひっかかった。
その刹那、男はエエ〜っと叫び
瞬時にのけぞった。

新喜劇かよ。
それくらいのズッコケ具合で、本場のそれに勝るとも劣らず
吉本にズッコケ要員としてだけでも雇ってもらえそうな
なかなかの勢いだった。
（シゲゾーさんもビックリするはず）

しかし残額不足なんだろうけども
それにしても彼は驚きすぎである。

すご〜くのけぞって、いわゆるイナバウワー的な
（もしや、おそろしく古い表現を使ってるような気がする）のけぞり具合だ。
そして、その、のけぞる速度がすごかった。
スナップが効いてるというか
背筋と腰回りの筋肉がよほど鍛えられてるのだろうか
ぐいっと身体を後方にたおし
（ここで何故だか一瞬スローモーションで飛び散る汗がきらめくカット割り）
後頭部が自分のミゾオチに当たりそうだった。

これが見目うるわしき女性であったなら
自分の胸で受け止めてあげてもよかったのだが、
なにぶん、中年の男であるし頭は少々はげていて
しかもこの時期であるから、テカってるし、ぬめっていた。
ごめんこうむる。

ゆえに、
へッ、こちとらだって中学まではサッカーやってて
足腰の強さじゃまけねえぜ、と
（その後20年ほどまともに運動していないが）
自分も反復横跳びくらい敏速に
そのハゲ頭バックヘッドバットをかわした次第である。
あげく、後ろの人にちょっとぶつかってしまい
なぜだか自分が謝る。

自分は少しこのハゲリーマンに憤りを感じ
あぶら取り紙をひたと頭頂に貼り付けてやろうかと思ったが
それも大人げないなと思い、よした。

さて、あぶら取り紙ひたひたの刑を人知れずまぬがれたこのぬめった頭を持つ男は
いまだこの時点では後ろの自分には気にもかけず
またぐいっと体勢を戻した。
鹿威しかよ、と思った。
（ししおどし＝日本庭園によくある竹で水を受けて溜まったらコーンと跳ねるやつね）
そのように、禅僧よろしく澄まして体勢を立て直すと
あーびっくりしたなあもう…あ、すみませんねえ。
とようやく謝罪を述べ精算機へ向かっていった。

こっちがびっくりしたわ。


その後やはり、忌々しさがしばらく尾をひいた。
レジのピッて鳴るやつで
頭のバーコードを読み取ってやりたい気持ちがふとよぎった。


ではまた。


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