いつも引いていたカートを
椅子にみたてて。

そこだけ、陽が
ほのぼのとあたっていた。
風に舞う枯れ葉も、そこでは
さびしげではなかった。

白昼夢のなかの爺は
春の野原にいたのだろうか。
極楽に片足つっこんでるような
表情だった。
もしくは、画太郎センセのキャラ
として登場しても
なんら違和感のないような。
ほうけた顔。

ひょっとして、今日はもうすでに
立ちショウベンはすませたのか
すませてないのか、
それが問題だ。

角の壁には
濡れたあとはなかった。
これからということか。

残念ながら、本日のボクは
用足しを見届けることができず
その場を通り過ぎた。

ボクがよほどマジマジと
見ていたからだろう。
爺もジーッと見返してきた。

なんだこの若僧っ
ナニ見てんだバカ野郎

と鬼瓦権造みたいに
言いたそうであったが
あいにくそんな威勢も
ヒメダラの干物となるとともに
消え失せたようだった。

ボクもそう叫びたい気持ちは
やまやまだった。

こんなふうに。



通り過ぎてからもボクは
次の角で曲がって見えなくなるまで
何度かちらちら振り返ってみたが
ボクにロックオンしたまま
爺は微動だにしない。

もしかしてだけどもしかしてだけどぼくが立ちションを見届けずに過ぎ去っていったから怒っているんじゃないのぉぉ？

とも思ったが
はたして
それは
ボクの
単なる
うぬぼれ
でしょうか。

あれからどれくらいの時が流れ
爺は、用を足したのだろう。
ひょっとすると、
ボクと対峙したときすでに
コトは済んでいて
アトを隠すために、
前にカートを置き、ナニ食わぬ顔して
座していたのだろうか。

もしくは、カートはカモフラージュで
簡易的携帯便座なのか！？

ボクが、いつもは
まさに最中を目撃しているだけなため
爺の、処理後の行動に関しては
まったくもって無知だと
今さらながらに気づき、愕然とした。

こんなふうに。


木枯らしにのった
スミノフ爺の視線は
ボクの心とほほに沁みた。

ではまた。


遅ればせながら
おにはそと、ふくはうち。


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