2014/01/20
23:14:59
週末、仕事で神戸は三宮にいた。
少し暇ができて、三宮駅界隈をぶらぶらしていると
まわっている男に遭遇した。
MINT神戸という建物の地下から地上へ階段わきの
吹き抜けになった踊り場の隅っこのまさしく角で。
見たところ、25〜30歳。
痩せ気味で、無精髭ヅラの顔は青い。
腕を頭上に伸ばし、手のひらを合わせて
あうー、うー。と何やら唱えながらまわっている。
言葉にも成り得ず
ただ赤ちゃんがぐずってるくらいな発音で
冗長に伸ばすだけのお祈り。
良いように解釈しても、
せいぜいモンゴル遊牧民のホーミーにわずかながら
近い響きかもしれないが、
おそらくモンゴルの鼻たれ幼稚園児よりも、ほど遠い。
男は何回転か、しばらく回ったあと
ネジ巻きのネジがきれたように、
ゆらりと止まり、斜め前のベンチに
(ちなみにまわりには誰も座っていない。そりゃそうだ。気味悪い。)
置いてあったカバンをがさごそ。
ペットボトルだ。
水だ。
やはり、喉は大事なのだろう。
わかる。わかるよ。
そりゃあんだけ唸ってれば喉疲れるわな。
しかし、あ、喉ガラガラして、あ、ゴックンかよ。
ちょっとまずいだろう。
まあでもまわりに吐いたところで、それも迷惑だし
いい選択なのかもしれない。
僕がそんな逡巡する間もなく
すぐに第2ラウンドに突入した。
それはあくまで僕にとっての第2ラウンドであって
男にとっては何ラウンドかは不明である。
昼過ぎのことだったから
もし朝から、早朝から繰り返していると
何ラウンドだったろう。
そう思うには、理由があった。
ベンチのカバンの横に
コートが置かれていたからだ。
このクソ寒いなか(その日神戸は曇りで、夜には雪が降った)
1ラウンド目から脱いでまわるなど
気がふれているに違いない!
あ、そもそも気がふれてでもないと
隅っこの壁にすりすりしながら回ったりしないか。
つまり男にとっては負の二乗で正、
ということだから、そこは問題にしないでいいのか。
しかし、仮に暑くなって脱いだんだとしたら
本日、男は何百回、何千回まわってるんだろう。
僕は、おののきふるえる。
そんな僕を気の毒そうに
地元の人らしき通行人が眺める。
いつものことやから気にせんでええんやで、ということなのか。
僕もつとめて冷静に
横の階段を昇っていくことにした。
あう〜〜。う〜〜。
上から眺める男の光景は、
珍妙そのものであった。
一方で、トランス状態に陥った
狂熱的信者の祈祷のような気もした。
しばらくブラブラしていたものだが
気になって戻ってきた。
はたして、男はまだいた。
まわっていた。
男はいったい何を崇めているのだろう。
いや、空(くう)になりたいのではないか。
無だ。無心になりたいのだ。
遠心力を利用して
すべての想念を消し去りたいのだ。
なんということだ!
彼は尊師にちがいない!
僕はそう紐解いた。
いつしか惹かれている自分に気がついた。
数分後、
われわれは一緒にまわっていた。
あ〜〜、う〜〜。
あちぃー、あちぃー。
僕もいつしかコートを脱いでいた。
・・・・・
日は暮れかけていた。
誰が僕を引き戻してくれたのかは
わからない。
気づけば、東京への帰路についていた。
世界が、まわっていた。
少し暇ができて、三宮駅界隈をぶらぶらしていると
まわっている男に遭遇した。
MINT神戸という建物の地下から地上へ階段わきの
吹き抜けになった踊り場の隅っこのまさしく角で。
見たところ、25〜30歳。
痩せ気味で、無精髭ヅラの顔は青い。
腕を頭上に伸ばし、手のひらを合わせて
あうー、うー。と何やら唱えながらまわっている。
言葉にも成り得ず
ただ赤ちゃんがぐずってるくらいな発音で
冗長に伸ばすだけのお祈り。
良いように解釈しても、
せいぜいモンゴル遊牧民のホーミーにわずかながら
近い響きかもしれないが、
おそらくモンゴルの鼻たれ幼稚園児よりも、ほど遠い。
男は何回転か、しばらく回ったあと
ネジ巻きのネジがきれたように、
ゆらりと止まり、斜め前のベンチに
(ちなみにまわりには誰も座っていない。そりゃそうだ。気味悪い。)
置いてあったカバンをがさごそ。
ペットボトルだ。
水だ。
やはり、喉は大事なのだろう。
わかる。わかるよ。
そりゃあんだけ唸ってれば喉疲れるわな。
しかし、あ、喉ガラガラして、あ、ゴックンかよ。
ちょっとまずいだろう。
まあでもまわりに吐いたところで、それも迷惑だし
いい選択なのかもしれない。
僕がそんな逡巡する間もなく
すぐに第2ラウンドに突入した。
それはあくまで僕にとっての第2ラウンドであって
男にとっては何ラウンドかは不明である。
昼過ぎのことだったから
もし朝から、早朝から繰り返していると
何ラウンドだったろう。
そう思うには、理由があった。
ベンチのカバンの横に
コートが置かれていたからだ。
このクソ寒いなか(その日神戸は曇りで、夜には雪が降った)
1ラウンド目から脱いでまわるなど
気がふれているに違いない!
あ、そもそも気がふれてでもないと
隅っこの壁にすりすりしながら回ったりしないか。
つまり男にとっては負の二乗で正、
ということだから、そこは問題にしないでいいのか。
しかし、仮に暑くなって脱いだんだとしたら
本日、男は何百回、何千回まわってるんだろう。
僕は、おののきふるえる。
そんな僕を気の毒そうに
地元の人らしき通行人が眺める。
いつものことやから気にせんでええんやで、ということなのか。
僕もつとめて冷静に
横の階段を昇っていくことにした。
あう〜〜。う〜〜。
上から眺める男の光景は、
珍妙そのものであった。
一方で、トランス状態に陥った
狂熱的信者の祈祷のような気もした。
しばらくブラブラしていたものだが
気になって戻ってきた。
はたして、男はまだいた。
まわっていた。
男はいったい何を崇めているのだろう。
いや、空(くう)になりたいのではないか。
無だ。無心になりたいのだ。
遠心力を利用して
すべての想念を消し去りたいのだ。
なんということだ!
彼は尊師にちがいない!
僕はそう紐解いた。
いつしか惹かれている自分に気がついた。
数分後、
われわれは一緒にまわっていた。
あ〜〜、う〜〜。
あちぃー、あちぃー。
僕もいつしかコートを脱いでいた。
・・・・・
日は暮れかけていた。
誰が僕を引き戻してくれたのかは
わからない。
気づけば、東京への帰路についていた。
世界が、まわっていた。
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コメント
え?
一緒に回ったんですか?
まぢで?
うちの地元あたりは
不思議な方、たくさんいますよ。
昔の海軍の白い制服を着たじいちゃんと
真っ白鹿鳴館ドレスのばあちゃんのカップルとか。
一年中アロハのおっさん。
全身ブランドのシャネルおじさん。
季節外れのどでかい造花を帽子につけてるおばさんとか…。
あ、顔だけ女装(しかも家族連れ)のオッサンとかもいたな…。
うちの地元、呪われてます?
まぢで?
うちの地元あたりは
不思議な方、たくさんいますよ。
昔の海軍の白い制服を着たじいちゃんと
真っ白鹿鳴館ドレスのばあちゃんのカップルとか。
一年中アロハのおっさん。
全身ブランドのシャネルおじさん。
季節外れのどでかい造花を帽子につけてるおばさんとか…。
あ、顔だけ女装(しかも家族連れ)のオッサンとかもいたな…。
うちの地元、呪われてます?
Coo│URL│2014/01/21(Tue)19:09:12│
編集
Re: タイトルなし
> 一ヶ所で回ってられるって体幹が鍛えられてるのかしら?
かもしれませんねw
> 私の場合回るとそのまま
> あっちこっち移動して行っちゃうんだよな…
彼の場合は隅っこだったため、二辺は壁に支えられておりました。
似た境遇なら大丈夫かと思われます。
かもしれませんねw
> 私の場合回るとそのまま
> あっちこっち移動して行っちゃうんだよな…
彼の場合は隅っこだったため、二辺は壁に支えられておりました。
似た境遇なら大丈夫かと思われます。
寺澤晋吾│URL│2014/01/24(Fri)18:03:05│
編集
Re: え?
> 一緒に回ったんですか?
> まぢで?
>
そこは創作ですよw
> うちの地元あたりは
> 不思議な方、たくさんいますよ。
一度、観察しに行ってみたいですね。
いい噺ネタがたくさんできそう。
> まぢで?
>
そこは創作ですよw
> うちの地元あたりは
> 不思議な方、たくさんいますよ。
一度、観察しに行ってみたいですね。
いい噺ネタがたくさんできそう。
寺澤晋吾│URL│2014/01/24(Fri)18:07:09│
編集
おいでませ。
オススメは街中ですw
(※変人spot)
ちなみに都心からはお手軽な観光地なので、ぶらぶらするにはいいみたいです。
西武新宿線の終点ですw
(※変人spot)
ちなみに都心からはお手軽な観光地なので、ぶらぶらするにはいいみたいです。
西武新宿線の終点ですw
coo│URL│2014/01/24(Fri)22:27:13│
編集
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私の場合回るとそのまま
あっちこっち移動して行っちゃうんだよな…
なんて思わず
真剣に悩んでしまいました( ̄▽ ̄;)